【人事と組織の経済学・実践編】理論的なため一部内容は難しいがビジネスマン必携の名著

今回は人事と組織の経済学・実践編を紹介します。どのような経緯でこの本にたどり着いたのか忘れてしまうほど昔に購入したものなのですが、ようやく読み終えることができました。内容は人事と組織に関する論説なのですが、経済学と絡めることで数字を用いた理論的な説明となり、非常に納得感のある箇所が多かったように思います。理解の難しい部分も多々ありましたが、近年読んだビジネス書のなかでは極めて名著であると感じています。本書は15章までありますが、ここにエッセンスを一部記載しておきます。ここに書いたのはほんの一部であり、本書はまだまだ膨大なボリュームがあります。

 

 

 

一章採用基準

期待値が同じ場合リスクの高い人物を採用する方が良い。期待にそぐわない場合解雇すれば良いからだ。また、終身雇用の企業だとしても、期待値が上回る場合リスクのある人物を採用する方が良い。また、雇用期間が長いほどスターとなった場合の価値が高まるので、ポテンシャルによる採用は若いほど有効である。しかし、スターの場合転職される危険性もあるので、条件次第では上の理論は成り立たない。
採用は生産性と給与等の分岐点を見て決定する。大卒と高卒の比較では高卒が有利なことも多い。生産性が同僚に依存する場合、大卒が指導の役割を果たすため、高卒が多いほど効果的である。
雇うべき人数は、利益がプラスにならなくなるまでである。パソコンなどの資源には限りがあるため、人を雇いすぎると溢れる人が出てくる。そのため適切な採用数には限界がある。
 

ニ章適任者の採用

良い条件を提示した場合、適切でない応募者も現れてしまう。これを選抜するには、資格、学歴によってスクリーニングをするのが有効である。ただし取得が難しすぎる資格は候補者が減りすぎるためこれに使えない。また心理学をスクリーニングの基準に使うのは難しく適切ではない。
これらのスクリーニングは、候補者が多数になるなど試験の効果が大きい場合にとくに有効である。また、不適任者の採用損失が大きい場合も有効である。そのため新卒選考では有効である。さらなるスクリーニングとして試用も挙げられる。
また、初任給と昇給については、初任給を他社より低く、昇給を他社より高くすることで有能な社員を集めることができる。実績主義は従業員の動機付けのみならず、応募者の振り分けにも役に立つ。
 

三章能力への投資

自己投資はリターンが上回らなければ意味がなく、リターンは期間が延びると逓減される。そのため教育への投資は、最適な停止すべき点があることになる。また就業期間が長いほど最適な投資量は大きい。
会社でしか通用しない能力を高めるか、外部でも通用する能力を高めるかについては、自身が今後その会社に残るのか転職するのか次第である。
会社は大学教育などの一般的な研修に費用を負担すべきではない。これは労働者の価値向上により、給与も増加したければならなくなるからである。OJTにしても、一般的人的資本については会社は負担してはいけない。
 

四章離職の管理

離職が望ましいのは、再度適切な候補者を検討できるためである。とくに、キャリアの初期や専門性の高いサービス業や学問の領域での離職は望ましい。また、上位のポストが先細りになっている場合も離職は必要である。ただし企業特殊的な知見を要する会社の場合、高い離職率はコストとなる。
反対に離職を慰留する方法は、高い報酬を与える、興味のある仕事を与える、昇進させることである。
また、引き抜きは対象としている人の自社への価値が高い場合、かつ、相手の企業がその人に過剰な給与等を支払っていない場合行うとよい。企業は引き抜きを考慮して、その他社員の基本的な給与を安くしておくことが望ましい。
利益を上げていない者と報酬の高い者のどちらを解雇するかについては、雇用と同じく生産性との兼ね合いで判断する。どちらにせよ給与は高いが生産性の低い社員が、最適な対象となる。仮に企業特殊的な知見が求められる会社の場合、若手と定年前の社員を解雇するのが良い。定年前はその後の利益が少なく、若手は育成にコストが必要なためである。
 

五章意思決定

意思決定は分散したほうが上手くいく。これはアダムスミスの見えざる手でも述べられているように、それぞれが個人の利益を追求しようとも、経済は自然と発展することと同様である。また、時間と場所に応じた迅速な対応が必要であり、中央にすべての情報を集約することはできないため、中央集権化は効率が悪い。そのため多くの場合において分散化が良い。ただし異なった部門で同じ資源を利用するなど規模の経済や標準化の効果が大きい場合はその限りではない。また情報伝達にコストがかかる場合や下層部の決定が他の部門に影響を与える場合も集中化したほうが良い。分散化には管理時間の節約、部下の教育、仕事の充実感を与えられることなどのメリットもある。
意思決定の過程は、構想、認可、実行、モニタリングである。課題の打ち手を複数挙げるのが構想、打ち手を絞るのが認可、それを実行し、モニターしていくことになる。このうち構想と実行は分散化、認可とモニタリングは集中化することが多い。これは構想や実行は各現場レベルの情報が必要であるのに対し、認可やモニターでは会社全体の整合性を見る必要があるためである。例として工場長はある課題の解決策を挙げるよう部下に指示をする。その中から最適な戦略を選ぶのは工場長である。
 

六章組織構造

基本的な組織構造はいくつかある。一つ目は階層型組織である。単一の意思決定者がいることは利点が多いが、コミュニケーションに不安がある。二つ目は機能型組織構造である。これは専門化されているので能力投資を効果的に行える。しかし、専門外についての視野がなくなることや、部門間のコミュニケーションに不安がある。三つ目は部門別組織構造である。各部門で上流から下流までを揃えるため専門化において有効である。しかし、部門間競争の発生や協力関係の難しさなど課題も多い。
組織構造を決定するうえでの原則は、単一の意思決定者、専門化である。また組織の複雑さが増すほど、機能の分散化が重要となる。その代わり多くの調整を行わなければならない。
調整を行う場合、それぞれの知識が偏るためコミュニケーションにコストがかかる。そのため、現場の低いレベルで意思決定されることが望ましい。また転籍によってゼネラリストを育成することも効果的であり、これらの者が各コミュニティで組織を結びつける役割を果たす。
 

七章職務設計

職務設計には、意思決定と任務の量という2つの特徴がある。近年ではこれらが両者とも増加する拡充された職務設計がされていることが多い。
職務設計では複数の仕事を持つか専門化するかの2つがあるが、組織の規模が大きくなるほど専門化が効果的となる。その代わり、複数の仕事を持つ場合には、移動費などの取引コストの低下、関連業務の効率化、複数の職務に渡った思考をできる社員の育成、専門化による労働意欲の低下を防ぐというメリットがある。
研究によると、意思決定を集中し能力の低い労働者を雇うという伝統的な職務設計をしている場合の生産性は最も低い。しかし、変更へのコスト、マネージャーの理解不足により旧態的なままの会社が多い。
集中化は、会社の規模が大きく、単純で独立した業務を扱い、予測可能で、成熟した事業を行う場合には効果的である。
専門化の課題は労働意欲の低下である。労働意欲の向上には、自律性、フィードバック、能力の多様性、任務の完結性、任務の重要性が必要であり、前2つは分散化によって得られるものである。また、任務の重要性はマネージャーが引き上げられるものではない。複数の仕事を経験させる多様性は内発的動機の向上に効果的であり、新しい任務を与えていくことが望ましい。これら5つのうち重要なのは、任務の重要性と多様性の2つである。
 

八章職務設計の応用

チームワークはしばしば美化されるが、意思決定者が統一されず、フリーライダーを生み出す点では問題がある。しかし、チームのメンバーが同じチームとなったときに共用できる独自の情報を持ち、独自の情報が価値を持つ場合はチームの効果が大きくなる。
チームの課題であるフリーライダーは、同僚の監視によって防止できる。しかし規模の大きいチームワークでは、これが発揮されない。
チームのメンバーを決める際は、入札が最も有効である。それができない場合は経営陣がこれに倣ってメンバーを決めなければならない。
 

九章実績の評価

評価を考える際にまず重要なのは、制御可能なリスクと制御不可能なリスクを分けることである。制御不可能なリスクを評価に加えてはいけない。つまり、理想的な実績指標は、従業員が会社に与えた影響だけを反映させることである。ただし評価の指標を狭めすぎるとそれに応じて漏れが発生してしまうため、適度な指標を考えなければならない。特に量を基準とした場合、質が考慮されていないことが多い。
またどの時間軸で評価するのかを考えなければならない点と指標が狭い場合不正が起こりやすいこと、上司に気に入られようとするために評価が歪む点などには注意が必要。
評価の指標は元の能力、後で身につく能力、努力の3つである。これをさらに分解することは難しい。
 

十章実績に対する報酬

報酬は、評価指数のある点までは一定で、ある点から係数に応じて上昇する実績評価を基本としたモデルが理想的である。しかし実際はそうでないことが多い。
例えば、昇進により断続的に上昇するモデルがあるが、これはインセンティブを弱くする。それは区分点付近でなければやる気が喪失するためである。また、一か八かという制度のため、不正操作を招きかねない。
さらに、報酬に上限を設けることも問題である。優秀な従業員を失う危険性があるためである。ただしあまりにも高い報酬を得られる場合、不正操作を招くため上限を設けることもある意味では必要となる。
 

十一章昇進というインセンティブ

多くの場合昇進はインセンティブとなる。昇進にはトーナメント方式と絶対基準方式があり、一般的な企業ではトーナメント方式となりやすい。しかしトーナメント方式にはタイミングごとの昇進者の質がバラつくという問題があるため、優秀な従業員の離職を防ぐためには絶対基準方式との併用が求められる。
トーナメント方式は比較するだけなので評価をしやすい。対して環境が異なる場合には個人ごとの判定は難しく、評価が歪んでしまう。
昇進による報酬の幅が大きいほどインセンティブに強く影響する。また競争の終盤での報酬が高いほど、それ以下の階層でのインセンティブも向上する。
また昇進の確率が1か0の場合、インセンティブはなくなる。確率が高すぎる場合も従業員がサボるためインセンティブは弱くなるが、一般的には昇進の確率が高いほどインセンティブは強い。運の要素が強い場合にもインセンティブは弱くなる。これに対処するには評価にコストをかけるか、昇進による幅を大きくすることである。
インセンティブが高いのは昇進の基準値付近にいる従業員である。そのため、これを大きく上回るか下回る従業員にはそれぞれ負と正のフィードバックを与えインセンティブを維持すると良い。また、攻撃的な性格と協力的な性格の従業員を一緒に働かせる場合、トーナメント方式を採用することには問題がある。負け組のインセンティブを維持するには、ボーナスなど昇進とは別の報酬に影響を与えられるようにすることや、新たな仕事を与えるなどの方法がある。
外部者の採用はインセンティブを低下させる。しかし、内部者に適当なものがいない場合は外部の採用も良い。
 

十二章オプションと経営陣の報酬

オプションを報酬にするのは最もコストがかかる。従業員にとってオプションが大きな割合を占める場合リスク回避的に行動するようになるためである。そのため投資家から資金を調達するほうが通常は望ましい。
経営陣のインセンティブは、市場競争のプレッシャーが高ければ強くなる。これに対して独占企業のインセンティブはガバナンスに相関する。経営陣の内発的動機は生き残りであることが多い。この場合ポートフォリオ分散のため多角化を進めがちであるが、これは企業の評価がわかりにくくなり、経営も困難となるため必ずしも良いものではない。
 

十三章福利厚生

福利厚生の適正量を把握するのは難しい。これを知るには市場調査の結果を用いる方法などもあるが、現金の支給と福利厚生の提供は大きく異なるため、その中身の検討は十分に行うべきである。
その基準は、調達性の優位と従業員にとっての価値の優位である。調達の優位は規模の経済が成り立つ時である。企業が提供する福利厚生を安く入手できる場合は調達優位となる。また従業員が好む福利厚生を提供した場合、価値の優位となる。
 

十四章起業と企業内起業

能力の高い従業員は起業も可能であるが、大企業内の資源を有効に使い、活躍することも1つの道である。
起業者は人・金・物・情報といった資源を集めなければならないため、横断的な能力が求められる。これは企業内の経営者も同様である。
成熟した企業は調整が増えるため官僚的になることはある意味当然である。しかし過度な官僚化には問題がある。1つの対策は事業部門ごとの権限を大きくし、組織を分散化することである。ただし環境次第では、集権化した方が良いこともある。また革新的なアイディアは寛容的に集めて、製品化などコストがかかるに厳選すれば企業が保守的となることを避けられる。
さらにイノベーティブな従業員を育てるには2つの方法がある。1つ目は内発的な動機である。つまり多くの仕事を与え、多くの能力開発を促し、多くの課題を解決させることでモチベーションを高める。2つ目は外発的動機である。しかし報酬に目が行き過ぎると内発的動機を下げることもあるため、過度な報酬は推奨しない。しかし報酬がなさすぎるのも問題である。またこの際の評価指標にも注意が必要である。特に指標を量に設定すると、質を高めるインセンティブが低下してしまう。
また、製品ラインナップの簡素化や影響力の少ない業務の外注化でも官僚化を緩和できる。
 

十五章雇用関係

企業と従業員が協力関係にある場合、良い循環を生み労使間のゼロサムゲームではなくなる。実際の労使関係は囚人のジレンマと似ているが、囚人のジレンマと違うのは、ゲームが繰り返されることである。そのため、相手が裏切ったら罰を与え、協力したらこちらも協力する戦略をとることが、協力関係を築くための最適解となる。このとき協定書を作成することは重要であり、これに記載のない問題が発生した場合の対処手続きについても明確化すると良い。
お互いがフェアな雇用主、忠実な従業員と思っていれば協力関係は強くなる。とく雇用主の場合は、長い歴史、処遇の一貫性、第一印象を意識することが重要である。